犬が夜鳴きする原因には、環境や生活リズムの変化、不安、排泄や空腹などの生活上の理由、痛み、病気、加齢に伴う認知機能の変化などがあります。
夜に鳴くという行動だけで原因を特定することはできません。若い犬とシニア犬でも考えやすい原因は異なりますし、急に始まった夜鳴きと、数か月かけて増えてきた夜鳴きでも見方が変わります。
原因を考えるときは、「いつから」「何時ごろ」「鳴く前後に何をしているか」「昼間の睡眠」「食欲・水分・排泄」「歩き方や痛み」「見当識の変化」をセットで確認しましょう。
まず「いつから・どんな夜鳴きか」を整理する
夜鳴きの原因を考えるうえで、発症時期とパターンは重要です。
最初に確認したいこと
- 突然始まったか、徐々に増えたか
- 就寝直後、深夜、明け方のどこで鳴くか
- 1回どのくらい続くか
- 毎晩か、ときどきか
- 鳴きながら歩き回るか
- 人がそばへ行くと落ち着くか
- 外へ出すと排泄するか
環境や生活リズムの変化
引っ越し、寝床の変更、家族の生活時間の変化、新しい家族やペットが増えたことなどが夜鳴きにつながる場合があります。
特に、日中の運動量や刺激が減って昼間に長く眠ると、夜に目が覚めて活動しやすくなることがあります。
ただし、環境変化の時期と夜鳴きの開始時期が一致していても、痛みや病気が隠れていないかは確認します。
不安・分離不安
飼い主と離れることへの不安や、夜間の物音、雷、風、工事音などへの恐怖で鳴く場合があります。
Merck Veterinary Manualでは、犬の不安関連行動には、鳴く、歩き回る、落ち着かない、破壊行動、排泄失敗などが含まれることがあります。
人が近くに来ると落ち着く、特定の音がした日に悪化するなど、きっかけを記録します。
トイレへ行きたい・排泄しにくい
夜中に尿意や便意があり、鳴いて知らせていることがあります。
特にシニア犬では、腎臓病、糖尿病、クッシング症候群などで多飲多尿が起きると、夜間の排尿回数が増えることがあります。
外へ出すとすぐ排尿する、夜間の尿量が増えた、室内で粗相が増えた場合は、夜鳴きだけでなく排尿の変化も伝えます。
空腹・のどの渇き
食事時間が大きく変わった、夕食量が少ない、運動量が増えたなどで夜間に空腹を感じることがあります。
ただし、食欲が異常に増えている、多飲多尿がある、体重が減っている場合は、糖尿病や内分泌疾患などの評価が必要になることがあります。
痛みで眠れず鳴くことがある
関節痛、腰・首の痛み、歯の痛み、腹痛などがあると、寝姿勢を維持できず、夜間に鳴く・うろうろする・何度も寝返りを打つことがあります。
VCAでは、痛みのある犬で、立ち上がりや横になるときのうめき声、落ち着かない、歩き回る、活動性低下などが見られるとしています。
痛みを疑う変化
- 夜中に何度も寝床を変える
- 横になるときに鳴く
- 立ち上がるのに時間がかかる
- 階段やジャンプを避ける
- 触ると嫌がる
- 足をひきずる
呼吸が苦しくて眠れないこともある
心臓病や呼吸器疾患では、横になると苦しそう、夜間に咳をする、呼吸が速い、落ち着かないといった症状が出ることがあります。
夜鳴きに加えて呼吸が苦しい、舌や歯ぐきが青紫色、倒れるなどがある場合は、行動問題として様子を見ず緊急受診を考えてください。
視力・聴力の低下で不安が強くなることがある
高齢になると視力や聴力が低下し、暗い部屋や夜間に不安を感じやすくなる犬がいます。
家具にぶつかる、呼んでも反応しにくい、暗い場所で立ち止まるなどがあれば、感覚機能の変化も伝えます。
シニア犬では認知機能低下症候群を確認する
シニア犬で夜鳴きが増えた場合、犬の認知機能低下症候群(CDS/CCD)が候補になります。
AAHAでは、犬の認知機能低下の代表的な変化をDISHAAとして整理しています。見当識、社会的交流、睡眠覚醒周期、排泄習慣、活動性、不安などの変化です。特に、昼間によく眠り、夜間に落ち着かなくなることは代表的なサインです。
| 変化 | 確認例 |
|---|---|
| 見当識 | 部屋の隅で動けない、出口が分からない |
| 交流 | 家族への反応が変わった |
| 睡眠覚醒 | 昼に寝て夜に起きる |
| 排泄 | トイレの失敗が増えた |
| 活動性 | 歩き回る、同じ動きを繰り返す |
| 不安 | 以前より不安そう、離れると鳴く |
認知機能低下は「年齢だけ」で診断しない
認知機能低下症候群は、似た症状を起こす病気を除外しながら診断します。
AAHAでは、病歴、身体検査、神経学的検査、血液生化学、尿検査などを行い、痛み、臓器疾患、脳の構造的疾患などが似た行動変化を起こしていないか確認することが重要としています。
「高齢だから認知症」と決めつけず、痛み・排泄異常・内臓疾患・神経疾患などを確認します。
脳・神経の病気でも行動が変わることがある
脳腫瘍、発作性疾患、前庭疾患などの神経疾患で、夜間の落ち着かなさ、徘徊、反応変化、鳴き方の変化が出ることがあります。
次のような症状を伴う場合は、夜鳴きだけの問題として扱わないようにします。
- けいれん
- 突然ぼんやりする
- 旋回する
- 頭を傾ける
- ふらつく
- 壁や家具にぶつかる
- 性格が急に変わる
内臓疾患でも夜間に落ち着かなくなることがある
腎臓病、肝臓病、消化器疾患、内分泌疾患などで、吐き気、腹部不快感、多飲多尿、全身のだるさが起こり、夜に眠れず鳴くことがあります。
食欲、水分、尿、便、嘔吐、体重に変化がないか確認します。
薬の影響も確認する
新しく薬を始めた、薬の量を変えた後から夜鳴きや落ち着かなさが出た場合は、薬との関連も確認します。
ステロイドなど、飲水・排尿や活動性に影響する薬もあります。
自己判断で処方薬を中止・減量せず、薬の名前・投与量・開始日を処方した獣医師へ伝えてください。
急に夜鳴きが始まった場合は体調変化を優先する
これまで夜鳴きしなかった犬が突然鳴き始めた場合は、環境変化だけでなく痛みや病気を確認します。
特に、食欲低下、嘔吐、下痢、呼吸異常、排尿困難、歩行異常などを伴う場合は早めに受診します。
長期間続く夜鳴きも放置しない
毎晩の夜鳴きが数週間〜数か月続く場合も、原因確認が必要です。
犬本人の睡眠不足だけでなく、飼い主の生活にも大きな負担になります。認知機能低下、不安、慢性痛などは治療や環境調整で改善できる場合があります。
夜鳴きの動画を撮る
診察室では夜鳴きが再現されないため、可能なら動画を残します。
動画で確認したいこと
- 鳴き声の種類
- 立っているか、横になっているか
- 歩き回るか
- 壁や家具の前で止まるか
- 呼吸が苦しそうではないか
- 人が近づくとどう変わるか
睡眠と活動の記録をつける
数日分の記録があると、昼夜逆転や特定時間帯のパターンを伝えやすくなります。
- 昼間に寝ている時間
- 散歩・遊びの時間
- 夜鳴きの開始時刻
- 一晩の回数
- 食事・水分・排泄時刻
すぐ受診を考えたいサイン
緊急性を判断するときは、次の変化がないかを先に確認します。
【夜鳴きと一緒にあれば緊急性を考える症状】
- 呼吸が苦しそう
- 立てない・歩けない
- 強い痛みで鳴き続ける
- けいれん
- 意識・反応がおかしい
- 腹部が急に膨らんでいる
- 排尿できない
- 中毒・誤食・外傷が疑われる
夜鳴きそのものより、同時に起きている身体症状で緊急度を判断します。
動物病院では何を調べる?
まず問診と身体検査で、夜鳴きの行動パターン、痛み、心肺、腹部、神経学的な異常などを確認します。
原因に応じて、次の検査を追加します。
| 検査 | 主な目的 |
|---|---|
| 血液検査 | 腎臓・肝臓・血糖・電解質など |
| 尿検査 | 多飲多尿・尿路疾患など |
| X線・超音波 | 痛みや内臓疾患の評価 |
| 神経学的検査 | 脳・神経疾患の手がかり |
| MRIなど | 脳の構造的疾患が疑われる場合 |
AAHAでは、認知機能低下を疑う場合も、病歴・身体検査・神経学的検査・血液生化学・尿検査などで他の原因を除外することが重要としています。
治療は原因に合わせる
夜鳴きを止めることだけを目的にするのではなく、原因に合わせて治療します。
- 痛み:痛みの原因治療・疼痛管理
- 不安:環境調整・行動療法・必要に応じ薬物療法
- 排泄異常:原因疾患の治療
- 認知機能低下:生活環境調整、運動・認知刺激、食事や薬物療法など
- 神経・内臓疾患:原因疾患ごとの治療
AAHAでは、認知機能低下は早期に認識して管理を始めることが重要で、環境エンリッチメント、運動、食事、薬物療法などを組み合わせる考え方を示しています。
夜鳴きへの対応で避けたいこと
まず、判断に必要なポイントを順に確認します。
- 原因を確認せず叱る
- 強く驚かせて止める
- 人用の睡眠薬を与える
- 高齢だから仕方ないと放置する
- 痛みや排泄要求を無視する
特に、痛みや認知機能低下が背景にある犬を叱っても原因は解決しません。
受診時に伝えたい10項目
診察時に経過を正確に共有できるよう、次の情報を整理しておくと役立ちます。
- 夜鳴きが始まった時期
- 鳴く時間帯
- 1回の長さ・一晩の回数
- 鳴く直前・直後の行動
- 昼間の睡眠時間
- 食欲・飲水量
- 尿・便の変化
- 歩き方・痛みの有無
- 見当識・粗相・徘徊などの変化
- 現在の薬・サプリ
夜鳴きの動画と、数日分の生活記録を持参すると診察時の説明がしやすくなります。
診療費を確認したい場合
夜鳴きの原因が行動・環境だけなのか、痛みや内臓・神経疾患まで調べる必要があるのかで診療費は変わります。



