犬がお尻を床にこすって進む「尻歩き」は、肛門まわりに違和感やかゆみ、痛みがあるときに見られる行動です。最もよく知られている原因は肛門嚢の詰まりですが、肛門嚢炎、膿瘍、寄生虫、皮膚炎、便の付着、肛門周囲の腫瘤などでも起こることがあります。
一度だけ軽くこすったからといって必ず病気とは限りませんが、何度も繰り返す、肛門をしきりに舐める、におい・腫れ・出血・膿がある場合は原因を確認します。
強い痛み、肛門の横の腫れ、血や膿が出る、排便しづらい、元気や食欲が落ちている場合は、自己判断で肛門腺を絞らず動物病院へ相談してください。
お尻をこするときに確認したいこと
- いつから、何回くらい尻歩きをしているか
- 肛門周囲を舐めたり噛んだりしているか
- におい、赤み、腫れ、血、膿があるか
- 便が軟らかい・硬いなどの変化があるか
- 排便時に痛がる、いきむことがあるか
最も多い原因の一つは肛門嚢のトラブル
犬の肛門の左右には肛門嚢という袋状の器官があります。通常は排便時などに中の分泌物が排出されますが、うまく出せずにたまると違和感や痛みにつながることがあります。
Merck Veterinary Manualでは、肛門嚢疾患には詰まり、炎症、膿瘍、腫瘍などが含まれ、尻歩き、肛門周囲を舐める・噛む、排便時の痛みなどがみられるとしています。
肛門嚢が詰まっている
分泌物がたまりすぎると、犬は違和感を解消しようとしてお尻を床へこすることがあります。
小型犬では肛門嚢の詰まりや炎症が起こりやすい傾向があるとされています。ただし、犬種だけで判断することはできません。
肛門嚢炎・膿瘍
たまった分泌物に細菌が増えると、炎症や感染につながることがあります。さらに膿瘍になると、肛門の横が腫れ、強い痛みが出たり、皮膚が破れて血や膿が出たりする場合があります。
血や膿が見える場合は、単なる「肛門腺がたまっただけ」と考えず受診してください。
寄生虫が原因になることもある
消化管寄生虫の中には、肛門周囲の違和感につながるものがあります。特に条虫では、便や肛門周囲に白い米粒のような片節が見えることがあります。
Merck Veterinary Manualでも、条虫は便や肛門周囲に片節を確認することで見つかることがあるとされています。
- 便や肛門周囲に白い米粒状のものがある
- 便の状態が変わった
- 体重が減ってきた
- ノミが見つかった、またはノミ対策をしていない
寄生虫の種類によって治療薬が異なるため、市販薬を自己判断で選ぶより、便検査などで確認してから治療します。
便が肛門周囲に付いているだけの場合もある
軟便や下痢のあと、長毛の犬では肛門周囲の毛に便が付着し、違和感からお尻をこすることがあります。
この場合は肛門周囲を清潔にすることで落ち着くこともありますが、軟便や下痢が続いている場合は、便の異常そのものの原因を確認する必要があります。
皮膚が赤くただれている場合は強くこすらず、ぬるま湯でやさしく汚れを落とす程度にして、必要に応じて受診します。
アレルギーや皮膚炎で肛門周囲がかゆいこともある
皮膚炎やアレルギーがある犬では、肛門周囲にもかゆみや炎症が出ることがあります。お尻だけでなく、足先を舐める、耳をかく、体をかくなどの症状が同時にあるか確認します。
肛門腺を絞っても尻歩きを繰り返す場合は、肛門嚢以外の皮膚トラブルがないか見てもらうことが大切です。
肛門周囲の傷・腫瘤・会陰部の病気も原因候補になる
頻度は高くありませんが、肛門周囲の傷、炎症、瘻孔、腫瘤などが違和感や痛みの原因になる場合があります。
Merck Veterinary Manualでは、肛門周囲の病気として肛門嚢腫瘍や会陰瘻なども挙げられています。
【見逃さず受診したい変化】
- 左右どちらかだけが腫れている
- 硬いしこりを感じる
- 血や膿が付く
- 傷が治らない
- 排便時に強くいきむ
- 便が細くなった
特に高齢犬で肛門周囲のしこりがある場合は、肛門腺の詰まりと決めつけず診察を受けます。
肛門腺を自宅で無理に絞らない方がよい場合
肛門腺絞りを自宅で行っている飼い主もいますが、強い痛みや腫れがある場合、内容物が非常に硬い場合、感染や膿瘍が疑われる場合は無理に圧迫しないようにします。
VCAでは、肛門嚢疾患の治療として内容物の排出や洗浄が行われ、痛みが強い場合は鎮静が必要になることもあるとしています。
何度も失敗して強く押し続けると、犬に痛みやストレスを与える可能性があります。出ない、痛がる、腫れている場合は動物病院へ任せます。
尻歩きの診察で伝える便・肛門周囲の変化
尻歩きだけでは原因を絞れないため、発症前後の情報を具体的に伝えます。
| 伝えること | 確認例 |
|---|---|
| 始まった時期 | 今日から、1週間前からなど |
| 頻度 | 1日数回、排便後だけなど |
| 肛門周囲 | 赤み、腫れ、におい、血、膿 |
| 便 | 軟便、下痢、硬い、細いなど |
| 排便 | いきむ、痛がる、回数の変化 |
| ほかの症状 | 体のかゆみ、耳をかく、元気低下など |
可能であれば、尻歩きしている様子や肛門周囲の変化を写真・動画で記録しておくと説明しやすくなります。
動物病院ではどんな確認・検査をする?
尻歩きの原因を絞るため、肛門周囲だけでなく便や皮膚、必要に応じて寄生虫なども確認します。
肛門周囲の視診
赤み、腫れ、傷、分泌物、しこりなどを確認します。
直腸検査・肛門嚢の確認
肛門嚢の大きさ、硬さ、内容物、痛みなどを確認します。Merck Veterinary Manualでは、肛門嚢の詰まり・感染・膿瘍は直腸検査で確認されることが多いとしています。
内容物の顕微鏡検査・培養
感染が疑われる場合は、肛門嚢の内容物を顕微鏡で確認したり、再発例では培養検査を行ったりすることがあります。
便検査
寄生虫が疑われる場合は便検査を行います。
超音波・細胞診・生検
硬いしこりや腫瘤がある場合は、超音波、細胞診、生検などが検討されることがあります。すべての犬に必要な検査ではありません。
繰り返す場合は「肛門腺を絞るだけ」で終わらせない
尻歩きを繰り返す犬では、毎回肛門腺を絞るだけでなく、なぜたまりやすいのか、便の状態や皮膚トラブルが関係していないかを確認します。
Merck Veterinary Manualでは、肥満による筋緊張の低下や分泌物の過剰などが肛門嚢内容物の停滞につながる可能性を挙げています。
再発例では、食事内容、便の硬さ、体重管理、皮膚疾患なども含めて見直すことがあります。
受診を急いだ方がよいサイン
【早めに動物病院へ相談したい状態】
- 肛門の横が腫れている
- 血や膿が出ている
- 強く痛がる、触らせない
- 排便できない、強くいきむ
- 元気や食欲が低下している
- 硬いしこりがある
肛門嚢の感染や膿瘍では強い痛みが出ることがあり、膿瘍が皮膚を破って排液する場合もあります。
出血・膿・強い腫れがある場合は、自宅で絞って済ませようとせず受診してください。
尻歩きは肛門腺だけが原因とは限らない
犬がお尻をこする原因として最もよく知られているのは肛門嚢の詰まりですが、肛門嚢炎・膿瘍、寄生虫、便の付着、皮膚炎、肛門周囲の腫瘤などでも起こります。
受診時には、いつから、何回くらい、排便との関係、便の状態、肛門周囲の赤み・腫れ・血・膿、ほかのかゆみ症状を伝えます。
繰り返す尻歩きや、強い痛み・腫れ・出血・膿・排便困難がある場合は、肛門腺を自己判断で処置せず動物病院で原因を確認してください。
参考:Merck Veterinary Manual「Anal Sac Disease in Dogs and Cats」「Disorders of the Rectum and Anus in Dogs」「Gastrointestinal Parasites of Dogs」、VCA Animal Hospitals「Anal Sac Disease in Dogs」。確認日:2026年10月26日。

