犬のくしゃみは、ほこりや煙など一時的な刺激で出ることもあれば、感染症、鼻腔内の異物、真菌、腫瘍、歯の病気などが関係していることもあります。
Merck Veterinary Manualでは、くしゃみは鼻腔・鼻咽頭の刺激に対する防御反射で、感染・炎症、腫瘍、先天異常、異物など幅広い原因で起こる非特異的な症状とされています。
原因を考えるときは「急に始まったか」「片側だけか」「鼻水の色」「血が混じるか」「呼吸が苦しくないか」を分けて確認すると整理しやすくなります。
まず「たまに出るくしゃみ」か「繰り返すくしゃみ」かを見る
単発のくしゃみは、ほこりやにおいなど一時的な刺激でも起こります。
一方、短時間に何度も繰り返す、数日続く、鼻水や鼻血を伴う場合は、鼻腔内の病気を含めて確認が必要です。
最初に記録したいこと
- いつから始まったか
- 1日に何回くらい出るか
- 連続して何回も出るか
- 特定の場所・時間帯で増えるか
- 散歩後・掃除後など環境との関係
VCAでは、時々のくしゃみは珍しくない一方、持続する・何度も繰り返すくしゃみや鼻水は診察を勧める症状としています。
原因1|ほこり・煙・香りなどの刺激
空気中のほこり、煙、スプレー、香料、刺激性ガスなどが鼻の粘膜を刺激して、くしゃみが出ることがあります。
環境で確認すること
- 掃除機・ほこり
- たばこ・煙
- 芳香剤・香水
- スプレー類
- 工事・粉じん
Merckでは、煙、刺激性ガス、ほこりの吸入で急性鼻炎が起こる場合があるとしています。
刺激源から離れるとすぐ落ち着き、その後ほかの症状がない場合は経過を見られることもありますが、繰り返すなら相談します。
原因2|感染症
ウイルス・細菌などによる呼吸器感染で、くしゃみや鼻水が出ることがあります。
Merckでは、犬の急性鼻炎ではウイルス感染が原因になることがあり、細菌感染は単独で起こるより、ほかの鼻の病気に続いて二次的に起こることが多いとしています。
感染症を疑う手掛かり
- 鼻水が増えた
- 咳がある
- 発熱が疑われる
- 元気・食欲が落ちた
- ほかの犬との接触後に始まった
鼻水が黄色・緑色だから細菌感染と自己判断せず、症状全体で評価してもらいます。
原因3|アレルギー・過敏反応
花粉、ほこり、カビなど環境中の物質への反応で鼻炎・副鼻腔炎が起こる場合があります。
Merckでは、アレルギー性鼻炎は季節性または通年性に起こることがある一方、犬では感染や異物などほかの原因も多いため、くしゃみだけでアレルギーと決めつけないことが重要です。
季節性を確認するポイント
- 毎年同じ時期に出るか
- 散歩後に増えるか
- 特定の部屋で増えるか
- 皮膚のかゆみもあるか
原因4|鼻腔内の異物
草の種や植物片などの異物が鼻に入ると、突然激しいくしゃみを繰り返すことがあります。
Merckでは、急に始まった片側性の鼻水や、顔を前足でこする仕草がある場合、鼻腔内異物を疑う手掛かりになるとしています。
異物を疑いやすい様子
- 散歩直後に急に始まった
- 連続して激しくくしゃみする
- 片側だけ鼻水が出る
- 鼻・顔を前足でこする
- 鼻血が出る
鼻の奥へ綿棒やピンセットを入れて取ろうとせず、動物病院へ相談します。
原因5|真菌性鼻炎
犬では、アスペルギルスなどの真菌が鼻腔・副鼻腔へ感染し、くしゃみや鼻水を起こすことがあります。
Merckでは、鼻アスペルギルス症で、膿や血の混じった多量の鼻水、鼻血、鼻の痛み、くしゃみなどがみられるとしています。
真菌性鼻炎を考える手掛かり
- 鼻水が長く続く
- 鼻水に血が混じる
- 鼻を触られるのを嫌がる
- 鼻周囲にただれがある
- 片側から始まり両側へ広がる
診断にはCT、鼻鏡、組織検査などが必要になる場合があります。
原因6|鼻腔内の腫瘍
中高齢犬で、長期間続く鼻水や鼻血、片側から始まる鼻症状がある場合は、鼻腔内腫瘍も鑑別に含まれます。
Merckでは、鼻腔腫瘍で慢性的な鼻水、くしゃみ、鼻血、いびきなどがみられ、最初は片側性でも進行すると両側へ広がることがあるとしています。
受診を急ぎたい変化
- 鼻血を繰り返す
- 片側の鼻水が長く続く
- 鼻・顔の形が変わってきた
- 目が出て見える
- くしゃみと鼻水が徐々に悪化する
慢性鼻症状では、X線よりCTが鼻腔内の詳しい評価に使われることがあります。
原因7|歯の病気
上顎の歯根部の感染が鼻腔側へ広がり、鼻炎や副鼻腔炎を起こすことがあります。
Merckでは、上顎の歯根膿瘍が鼻腔側へ広がり、鼻炎・副鼻腔炎につながる場合があるとしています。
歯科疾患を疑う手掛かり
- 口臭が強い
- 歯石が多い
- 片側だけ鼻水が出る
- 硬い物を食べにくそう
- 口周りを触られるのを嫌がる
原因8|鼻ダニなどの寄生虫
犬では鼻ダニ(Pneumonyssoides caninum)の寄生でも、くしゃみ、鼻水、鼻血、いびきのような呼吸音、頭振り、顔のかゆみなどがみられることがあります。
Merckでは、鼻ダニの診断にCTや鼻鏡、鼻洗浄などが使われる場合があるとしています。
受診時に伝える情報
- 他の犬との接触
- 多頭飼育か
- ホテル・施設利用
- 頭振り・顔のかゆみ
- 鼻血の有無
原因9|慢性炎症性鼻炎
異物、感染、真菌、腫瘍などを調べても原因を特定できず、慢性炎症性鼻炎として扱われるケースもあります。
Merckでは、犬の慢性鼻炎の原因としてリンパ球形質細胞性鼻炎などの慢性炎症性疾患を挙げています。
あわせて確認したい関連記事
症状への対処や受診時の費用もあわせて確認しておくと、原因を絞るまでの流れを整理しやすくなります。
長く続くくしゃみは「風邪が治らない」だけとは限りません。慢性化したら原因検索が必要です。
鼻水の「色・量・片側か両側か」を見る
| 鼻水の特徴 | 伝えるポイント |
|---|---|
| 透明 | 刺激・初期炎症なども含めて評価 |
| 粘液・膿状 | 感染・慢性炎症等を含めて評価 |
| 血が混じる | 真菌、腫瘍、異物、外傷等も検討 |
| 片側のみ | 異物、歯科、腫瘍等の手掛かり |
Merckでは、片側性の鼻水は異物などの手掛かりになり、慢性的な鼻水が片側から両側へ広がる、膿性から血性へ変化する場合は真菌や腫瘍を疑う材料になるとしています。
「逆くしゃみ」と通常のくしゃみを分ける
犬では、鼻から勢いよく息を出す通常のくしゃみとは別に、「逆くしゃみ」と呼ばれる短い発作的な吸気動作がみられることがあります。
Merckでは、逆くしゃみは鼻咽頭の刺激物を除こうとする短い吸気反射として説明されています。
動画で残すと分かりやすいこと
- 息を吐く動きか吸う動きか
- 1回何秒続くか
- 連続するか
- 終わった後は普段どおりか
安全に撮影できる場合は動画を残し、診察時に見せます。
動物病院ではどんな検査をするのか
急性で軽いくしゃみでは病歴と身体検査から経過を見ることもありますが、慢性・片側性・血性鼻水などがある場合は追加検査が必要になることがあります。
| 検査 | 確認することの例 |
|---|---|
| 身体・口腔検査 | 鼻、口、歯、全身状態 |
| 血液検査 | 全身状態・感染等の手掛かり |
| X線・CT | 鼻腔・副鼻腔・骨構造等 |
| 鼻鏡 | 異物、腫瘤、粘膜等 |
| 生検・培養 | 腫瘍、真菌、感染等 |
Merckの2026年更新情報では、慢性の鼻水・くしゃみでは、X線、鼻腔CT、鼻鏡、鼻咽頭鏡、鼻生検などによる追加評価が検討されます。
抗菌薬が効かないから「重病」とは限らないが、漫然と続けない
犬では、原発性の細菌性鼻炎はまれで、細菌感染が別の鼻疾患に続いて起こることがあります。
Merckでは、鼻の細菌感染は基礎疾患に続くことが多いとされており、慢性症状では抗菌薬だけでなく背景の原因検索が重要です。
再診で確認すること
- 薬でどこまで改善したか
- 鼻水の色・量は変わったか
- 片側から両側へ広がっていないか
- 鼻血が出ていないか
- 追加検査が必要な条件
受診時に伝えたいポイント
動物病院で伝える情報
- くしゃみが始まった日時
- 頻度・連続回数
- 片側か両側か
- 鼻水の色・量
- 鼻血の有無
- 咳・呼吸異常
- 食欲・元気
- 散歩場所や草むらとの関係
- 芳香剤・煙・工事など環境変化
- 他の犬との接触
「昨日からくしゃみ」だけでなく、「昨日の散歩後から連続くしゃみが始まり、右鼻だけ透明な鼻水が出ている」のように具体的に伝えると診察の参考になります。
自宅で鼻の奥を触らない
異物が見える気がしても、綿棒・ピンセットを鼻の奥へ入れて取り出そうとしないでください。
受診前に避けたいこと
- 鼻へ綿棒を入れる
- ピンセットで異物を探す
- 人用の点鼻薬を使う
- 人用の風邪薬を与える
- 刺激の強い蒸気を吸わせる
鼻出血がある場合も、鼻の中を何度も触らず受診します。
原因探しより受診を優先したい状態
早めに相談したい変化
- くしゃみが短期間に何度も続く
- 鼻水が大量に出る
- 鼻血を繰り返す
- 片側の鼻水が長く続く
- 鼻・顔を強く痛がる
- 食欲・元気が落ちる
VCAでは、持続するくしゃみ、繰り返す咳、持続する鼻水は受診対象としています。
呼吸が苦しい場合は救急受診を優先する
重い鼻炎や鼻腔内の閉塞では、鼻だけで呼吸しにくくなることがあります。
緊急性が高い呼吸サイン
- 呼吸が明らかに苦しい
- 息切れが強い
- 口を開けて苦しそうに呼吸する
- 舌・歯ぐきの色がおかしい
- ぐったりする
VCAでは、呼吸困難や息切れを伴う場合は救急病院の受診を勧めています。
呼吸が苦しい場合は、くしゃみの回数や鼻水を記録し続けるより、すぐ動物病院へ連絡してください。


