犬がお尻を床にこする、いわゆる「お尻歩き(スクーティング)」をするときは、行動だけで原因を決めつけないことが大切です。肛門嚢に分泌物がたまっている、肛門周囲が炎症を起こしている、便が付着している、寄生虫が刺激しているなど、いくつかの原因が考えられます。
まず確認したいのは、「何回こするか」「肛門周囲の赤み・腫れ・出血・膿」「強いにおい」「舐めたり噛んだりするか」「便と排便時の様子」です。
まず肛門周囲を目で確認する
犬がお尻をこしたら、すぐに肛門腺を絞るのではなく、まず見える範囲を確認します。
自宅で確認したいポイント
- 肛門周囲が赤くなっていないか
- 左右どちらかが腫れていないか
- 出血・膿・分泌物がないか
- 便や被毛が肛門周囲に付着していないか
- 普段と違う強いにおいがないか
- 犬がお尻をしつこく舐めたり噛んだりしていないか
痛がっている、強く嫌がる場合は無理に触らないでください。
1回だけなら便の付着や一時的な刺激のこともある
軟便や下痢のあとに便が被毛へ付いたり、肛門周囲が一時的に刺激されたりすると、お尻を床へこすることがあります。
便が少量付いているだけで、赤み・腫れ・出血・痛みがなく、その後は普段どおりであれば、ぬるま湯で湿らせたガーゼなどで周囲をやさしく清潔にして様子を見られることがあります。
皮膚を強くこすったり、アルコールや刺激の強い消毒剤を使ったりしないでください。
繰り返す場合は肛門嚢のトラブルを考える
犬の肛門の左右には肛門嚢(一般に「肛門腺」と呼ばれる部分)があります。分泌物がたまってうまく排出されないと、違和感や痛みからお尻をこすることがあります。
Merck Veterinary Manualでは、肛門嚢疾患の症状として、スクーティング、肛門周囲を舐める・噛む、排便時の痛みなどが挙げられています。肛門嚢は詰まりだけでなく、炎症、感染、膿瘍などへ進むことがあります。
「お尻をこする=肛門腺を絞ればよい」とは限らない
肛門嚢に分泌物がたまっているケースでは、適切な排出処置で改善することがあります。
しかし、すでに炎症や感染、膿瘍がある場合は、強く圧迫すると強い痛みを与える可能性があります。VCAでも、肛門嚢疾患は非常に痛いことがあり、普段おとなしい犬でも肛門周囲を触られると怒る場合があるとしています。
赤い・腫れている・出血や膿がある・強く痛がる場合は、自宅で肛門腺を絞らず動物病院へ相談してください。
肛門の横が赤く腫れている場合は膿瘍の可能性がある
肛門嚢が感染して膿瘍になると、肛門の横が赤く腫れ、強い痛みが出ることがあります。
Merck Veterinary Manualでは、肛門嚢膿瘍では強い痛みや皮膚の変色が見られ、破裂すると皮膚へ瘻孔ができることがあるとしています。
【早めに受診したい変化】
- 肛門の左右どちらかが腫れている
- 赤く熱をもっている
- 血や膿が出ている
- 触ると強く痛がる
- 座るのを嫌がる
- 排便時に鳴く・強くいきむ
肛門嚢が破裂しているように見える場合
肛門の横に穴のような傷があり、血や膿が出ている場合は、肛門嚢膿瘍が破裂している可能性があります。
家庭で中身を押し出そうとせず、汚れを軽く拭き取る程度にして受診します。
お尻を舐め続ける・噛む場合も確認する
スクーティングだけでなく、お尻や尾の付け根を繰り返し舐める・噛む行動も、肛門周囲の違和感や皮膚のかゆみで見られます。
舐め壊して赤くなっている場合は、さらに炎症や二次感染につながることがあります。
受診まで舐め続けてしまう場合は、獣医師へ相談のうえエリザベスカラーなどで自傷を防ぐ方法があります。
便の状態も一緒に確認する
軟便・下痢では肛門周囲が汚れやすく、刺激の原因になります。一方、便が硬く排便しにくい場合は、肛門周囲の痛みや肛門嚢疾患があると排便時の不快感が強くなることがあります。
| 便・排便の変化 | 確認したいこと |
|---|---|
| 軟便・下痢 | 被毛や皮膚への便の付着 |
| 硬い便 | 強くいきむ・排便時の痛み |
| 血便 | 便の表面か、肛門周囲からの出血か |
| 便が出にくい | 痛み、腫れ、便秘など |
米粒のようなものが付いていないか確認する
犬条虫などの条虫では、肛門周囲や便の表面に米粒・キュウリの種のような片節が見えることがあります。
VCAでは、条虫の片節による刺激で犬がお尻を床へこすることがあるとしています。
米粒のようなものを見つけた場合は、可能なら写真を撮り、便と一緒に動物病院へ相談します。条虫はノミを介して感染する種類もあるため、駆虫だけでなくノミ対策も重要です。
皮膚炎やアレルギーでもお尻をこすることがある
肛門周囲や尾の付け根に皮膚炎があると、かゆみから床へこすりつけることがあります。
赤み、フケ、脱毛、べたつき、皮膚のにおいなどがないか確認します。
雌犬では外陰部の刺激が関係することもある
犬がお尻をこするように見えても、実際には外陰部周辺に違和感がある場合があります。
Merck Veterinary Manualでは、陥没外陰部などで外陰部周囲皮膚炎、尿路感染、外陰部刺激、過度な舐め、スクーティングなどが起こることがあるとしています。
肛門ではなく外陰部を舐める、尿が近い、排尿時に違和感がある場合は、そのことも伝えます。
自宅でしてよいこと
重要な点を見落とさないよう、確認項目をまとめて整理します。
受診までにできること
- お尻をこする回数を記録する
- 肛門周囲を見える範囲で確認する
- 便が付いていればやさしく清潔にする
- 便の状態を記録する
- 赤み・腫れ・分泌物を写真に残す
- 舐め壊しが強い場合は自傷を防ぐ
原因を治すための処置は、状態を確認してから行います。
自宅で避けたいこと
まず、判断に必要なポイントを順に確認します。
- 強く肛門腺を絞る
- 腫れている部分を押す・つぶす
- 針などで穴を開ける
- 人用の軟膏や消毒薬を塗る
- 以前処方された抗菌薬を自己判断で使う
肛門周囲は痛みが強いと噛まれる危険もあります。犬が嫌がる場合は無理に触らないでください。
肛門腺絞りを定期的にする必要があるか
すべての犬で定期的な肛門腺絞りが必要とは限りません。排便時に自然に分泌物を排出できる犬もいます。
一方、繰り返し詰まりやすい犬では、獣医師や適切な技術を持つトリマーに頻度を相談することがあります。
何度も詰まる場合は、単に絞る頻度を増やすだけでなく、便の状態、体重、皮膚疾患など背景要因も確認します。
食物繊維を増やせば必ず解決するわけではない
Merck Veterinary Manualでは、食物繊維を追加して便のかさを増やすことで、排便時に肛門嚢が圧迫されやすくなる場合があるとしています。
ただし、肛門嚢炎・膿瘍・腫瘤などを食事だけで治すことはできません。フード変更や食物繊維の追加は、持病や便の状態も含めて獣医師へ相談します。
何回こすったら受診する?
回数だけで一律には決められません。
排便後に1回だけこすり、その後は普段どおりで、肛門周囲にも異常がない場合は短時間の観察ができます。
一方、何度も繰り返す、毎日続く、舐める・噛む行動が加わる場合は、肛門嚢や皮膚、寄生虫などの原因を確認するため受診を考えます。
当日〜早めの受診を考えたいサイン
重要な点を見落とさないよう、確認項目をまとめて整理します。
【早めに動物病院へ相談したい状態】
- お尻を何度もこする
- 肛門周囲が赤い・腫れている
- 血・膿・強いにおいがある
- 強く痛がる
- 排便できない・強くいきむ
- 元気や食欲が落ちている
- 発熱が疑われる、ぐったりしている
- 肛門の横に傷や穴がある
特に、肛門嚢膿瘍が疑われる腫れ・出血・膿・強い痛みがある場合は、家庭で絞らず受診してください。
動物病院では何を確認する?
診察では肛門周囲の皮膚、肛門嚢、直腸、便の状態などを確認します。
Merck Veterinary Manualでは、肛門嚢の詰まり・感染・膿瘍は身体検査や直腸指診で評価し、必要に応じて分泌物の顕微鏡検査、培養、超音波、組織検査などを追加するとしています。
肛門嚢の処置は状態によって変わる
単純な詰まりであれば、肛門嚢の内容物をやさしく排出する処置が行われます。
感染や膿瘍がある場合は、洗浄、抗菌薬・抗炎症薬、膿瘍の処置などが必要になることがあります。痛みが強い場合は鎮静が必要になることもあります。
繰り返す重度の肛門嚢疾患や腫瘍では、外科治療が検討される場合があります。
受診時に伝えたい8項目
診察時に経過を正確に共有できるよう、次の情報を整理しておくと役立ちます。
- いつからお尻をこするか
- 1日に何回くらいか
- 肛門周囲の赤み・腫れ・出血・膿
- 舐める・噛む行動
- 便の硬さ・下痢・便秘
- 排便時に痛がるか
- 米粒状の虫のようなものがないか
- 過去に肛門嚢トラブルがあったか
お尻をこしている動画、肛門周囲の写真、便の写真も診察の参考になります。
原因を詳しく知りたい場合
お尻をこする原因には、肛門嚢疾患、寄生虫、皮膚炎、便の刺激などがあります。原因ごとの特徴は次の記事で整理しています。
診療費を確認したい場合
肛門嚢の診察だけで済む場合と、感染・膿瘍・寄生虫・追加検査が必要な場合では費用が変わります。検査・処置費の考え方は次の記事で確認できます。


