犬と暮らしているからといって、人獣共通感染症に必ずかかるわけではありません。ただし、犬に咬まれた傷、傷のある皮膚や粘膜に触れた唾液、尿や便などを介して、人へ感染する病気があります。
大切なのは、犬との接触そのものを怖がることではなく、「どの場面で感染リスクが生じるか」と「接触後に何をするか」を知っておくことです。 特に咬み傷、ひっかき傷、排泄物の処理、海外で動物に咬まれた場合は、普段のふれあいとは分けて考えましょう。
犬から人にうつる感染症は感染経路を分けて考える
犬に関係する人獣共通感染症には、咬傷や唾液が関係するもの、尿や便などの排泄物が関係するもの、皮膚や被毛への接触が関係するものなどがあります。病原体によって感染経路は異なるため、「犬に触ったら感染する」と一括りにする必要はありません。
主な接触場面
- 犬に咬まれる、引っかかれる
- 傷口や目・口などの粘膜を舐められる
- 尿や便を素手で処理する
- 排泄物で汚れた水・土・床などに触れる
- 皮膚病や真菌症などがある犬と濃厚に接触する
感染症の種類より先に「何に触れたか」「皮膚に傷があったか」「いつ接触したか」を整理しておくと、受診時に状況を伝えやすくなります。
咬み傷や唾液で注意したい感染症
犬の口の中には人に感染症を起こしうる細菌が存在します。咬み傷は、見た目が小さくても歯が皮膚の奥まで入っていることがあり、傷口から細菌が侵入することがあります。

カプノサイトファーガ感染症
カプノサイトファーガ属菌は犬や猫の口腔内に存在する細菌で、主に咬傷やひっかき傷などをきっかけに人へ感染することがあります。厚生労働省は、傷が小さくても感染する可能性があるため、犬や猫に咬まれたり引っかかれたりした場合は石けんと流水で傷口をよく洗うよう案内しています。
発熱、強いだるさ、傷の腫れや痛みなど体調変化が出た場合は、咬傷歴を伝えて医療機関へ相談してください。持病や免疫機能に関わる治療を受けている人だけでなく、健康な人で報告されることもあるため、「自分は健康だから大丈夫」と決めつけないことが重要です。
パスツレラ症など
犬や猫の口腔内に存在する細菌が、咬傷や傷口への唾液接触を通して感染することがあります。傷の周囲が赤くなる、腫れる、痛みが強くなる、膿が出る、発熱するなどの変化があれば受診を検討します。
尿や便など排泄物で注意したい感染症
排泄物は、犬の健康状態に関係なく素手で触れない習慣をつけるのが基本です。便を片付けた後、トイレやケージを掃除した後は、手袋の使用や手洗いを徹底します。
レプトスピラ症
レプトスピラ症では、感染した動物の尿や、その尿で汚染された水や土などが感染源になることがあります。傷のある皮膚や粘膜から侵入する可能性があるため、尿を処理するときは直接触れないようにし、処理後は手を洗います。
散歩先で水たまりや泥に入る犬、野生動物やネズミがいる環境へ行く犬では、生活環境も含めて動物病院へ相談するとよいでしょう。
便を処理するときも手洗いを基本にする
便には細菌や寄生虫などが含まれる可能性があります。健康そうに見える犬でも、便を触った手で食事をしたり顔を触ったりしないようにします。
排泄物を処理するときの基本
- 素手で直接触らない
- 処理後は石けんと流水で手を洗う
- 汚れた床や物は先に汚れを取り除いてから清掃する
- 犬用の掃除道具と人の食器類を分ける
- 子どもが処理場所へ触れないようにする
狂犬病は国内と海外でリスクの考え方が違う
現在、日本国内では狂犬病の発生は確認されていません。一方で、狂犬病は世界の多くの地域で発生しており、海外では犬などに咬まれた場合の対応が重要です。
海外の狂犬病流行地域で犬などに咬まれた場合は、傷口を石けんと水でよく洗い、できるだけ早く現地の医療機関を受診してください。 帰国時には検疫所へ相談する対応も案内されています。
狂犬病は、発症すると有効な治療法がなく、極めて重篤な感染症です。国内で犬を飼う場合も、狂犬病予防法に基づく登録と予防注射を適切に行います。
犬に咬まれた・引っかかれたときの対応
咬まれた直後は、感染症の病名を自分で絞り込むより、傷を洗い、受診が必要な状態かを確認することが優先です。
【咬傷・ひっかき傷のあとに確認すること】
- 傷口を石けんと流水でよく洗ったか
- 深い傷、止まりにくい出血、強い痛みがないか
- 顔、手指、関節周辺など重要な部位ではないか
- 赤み、腫れ、熱感、膿、発熱などが出ていないか
- 海外での咬傷ではないか
深い咬み傷、出血が続く傷、傷の腫れや痛みが強い場合、発熱など全身症状がある場合は医療機関へ相談します。小さな傷でも、持病や服薬状況によって対応が変わることがあります。
受診時には「犬に咬まれた」「傷口を舐められた」ことを必ず伝え、日時、場所、犬の状態、海外での接触かどうかも伝えます。
日常生活では「過度に避ける」より衛生習慣を整える
人獣共通感染症があるからといって、犬とのふれあいをすべて避ける必要はありません。日常では、感染経路を作りにくい衛生習慣を家族でそろえることが現実的です。
- 犬と触れ合った後や排泄物を処理した後は手を洗う
- 口移しで食べ物を与えない
- 顔、口、目、傷口を舐めさせない
- 食器やトイレ用品を人用と分ける
- ノミ・マダニなどの寄生虫対策を継続する
- 下痢、皮膚病、発熱など犬の体調変化があれば動物病院へ相談する
乳幼児、高齢者、妊娠中の人、免疫機能に関わる病気や治療がある人などが家庭にいる場合は、必要に応じて人の医療機関と動物病院の両方へ相談し、家庭内での接触方法を確認します。
犬側の健康管理も人への感染予防につながる
人の感染対策だけでなく、犬の健康状態を把握することも大切です。定期健診、狂犬病予防注射、生活環境に応じたワクチンや寄生虫対策について、かかりつけの動物病院で相談します。
嘔吐や下痢、血尿、皮膚の異常、発熱、元気消失などがあるときは、「人にうつる病気かどうか」だけを基準にせず、犬自身の診療が必要かを判断してもらいましょう。


